「ヘーゲルと核戦争」第8回 土曜の放課後2

10月18日(土)14:00より文哲研の共催セミナー「土曜の放課後2」の第8回目が開催されます。「土曜の放課後2」は全12回の連続セミナーとなっており、過去の哲学者や思想家に現代的なトピックを掛け合わせた講演を行っております。よろしければお申し込みの上、ご参加くださいませ。

第8回「ヘーゲルと核戦争」

核兵器はなぜ廃棄できないのか。それは核保有国が、戦争を回避するためには核を持つことが必要だと考えているからです。大量殺戮を可能にする兵器が平和維持に不可欠だという理屈は、日常感覚からすると奇妙に聞こえるかもしれません。この理屈が成り立つ根拠は、核が基本的に「使えない兵器」であるという認識にあります。

敵対する二人の人物が、確実に相手を殺せる拳銃を持っているとします。しかもその拳銃には、打たれたら自動的に報復する機能も付いています。すると、二人が合理的に(つまり自分の延命を目的として)判断する限り、どちらも拳銃を発射することはできません。これが抑止力です。けれどもよく考えてみると、抑止力とは「相手は絶対に攻撃しない」という確信によってではなく、「もしかしたら攻撃するかもしれない」という疑いによって担保されています。

 軍事力の均衡によって戦争を回避するという発想は、ナポレオン戦争終了後のウィーン会議(1814-1815)にもあります。ヘーゲルの『精神現象学』はその直前、1807年に刊行されました。その前年、執筆中のヘーゲルがいたイエナにナポレオン軍が侵攻しました。ヘーゲルはナポレオンのことを「馬上の絶対精神」と呼び、「歴史の終わり」について思考しました。「歴史の終わり」とは人類滅亡ということではなく、対立する〈力〉同士のぶつかり合いによる発展(弁証法)のプロセスが停止するということです。
 
核兵器は「最終兵器」とも呼ばれます。最終兵器とは、人類を滅亡させる(かもしれない)兵器であると同時に、歴史を終わらせる兵器という意味でもあります。ヘーゲルはもちろん核兵器は知りません。けれども核戦略理論とはそもそも何なのか、それを哲学的な根底から理解するためには、ヘーゲルと共に思考することが今もなお必要だと思います。(吉岡 洋)

(吉岡 洋、哲学とアートのための12の対話 2025「土曜の放課後2」公式ページより引用)

哲学とアートのための12の対話 2025「土曜の放課後2」(公式ページ:https://yxy.kosugiando.art/

日程10月18日(土)
時間14:00〜16:00(受付開始:13:30)
会場 京都市立芸術大学 C棟3階「講義室7」(C-316)
※ C棟西側入り口からエレベーターで3Fにお上がりください。
図書館脇の通路を通り、「関係者以外立ち入り禁止」の札を横目にそのまま通り抜けてください。
参加費通常1,000円/回
(京都市立芸術大学、京都芸術大学の学生は参加費が無料です)
 ※ 前日までに下記からお申し込みください。
 ※ 参加費は当日、会場受付にて頂戴します。
申し込みhttps://yxy.kosugiando.a/form/contact.php
 ※ 前日までにこちらのフォームからお申し込みください。
記録映像視聴https://yxy.kosugiando.art/form/contact_video.php
通常3,000円/10回
(京都市立芸術大学、京都芸術大学の学生は無料です)
 ※第2回から第11回までの記録映像をネット上で視聴いただけます。
 ※ ご希望の方はこちらからお願いします。視聴費は講座日でのお支払い、あるいは銀行振込となります。お支払い確認後に限定公開アドレスを連絡します。
主催土曜の放課後・実行委員会
(植田憲司、吉冨真知子、谷本研、二瓶晃、由良泰人、大西宏志、安藤泰彦、小杉美穂子)
共催京都芸術大学 文明哲学研究所、京都市立芸術大学 加須屋明子研究室
哲学とアートのための12の対話 2025「土曜の放課後2」

土曜の放課後。かつては会社も学校も土曜は午前だけ、午後はお休みでした。2002年に学校にも週休二日制が導入されたので、もはや「土曜の放課後」は存在しません。それでもこの言葉を聞くと私たちは、たんなるノスタルジーを越えた何かを感じるのではないでしょうか?

放課後とはいってみれば「ポカンと空いた時間」でした。何をするのでもない、何のためでもない時間。今の生徒たちは学校の後も部活や塾などで忙しいかもしれません。現代では誰もが、できるだけ無駄な時間を作らないように追い立てられています。休息や遊びですらそのための場所や時間が用意され、何のためでもない時間はなくなりました。

「哲学とアートのための12の対話」の出発点は、室井尚さんが強調した「考える=迷子になる」です。迷子になるには「何のためでもない時間」が必要であり、その点が、この催しが普通の教養講座とは違うところです。「考える」ためにあえて「ナビ」を捨て、土曜の放課後のような「ポカンと空いた時間」に赴くことが大切なのです。

2023年度は「現代を問う」というサブタイトルで、室井さんと共に計画していた12のトピックについてお話した後、参加者の間で対話しました。2024年度「土曜の放課後」では、全12回のうち5回、様々な分野で活躍されているゲストをお呼びし、彼らとの対話を織り交ぜながら進めました。2025年度「土曜の放課後2」においては、過去の哲学者や思想家に現代的なトピックをぶつけてみるという、時空を超えた「対話」を試みたいと思います。

吉岡洋 + 土曜の放課後・実行委員会